【ふりがな】 ■あり □なし


[偏在する形容詞](2002/05/25)

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形容詞編を始めるに当たって、やはり気になるのは、 形容詞とは、一体 何者で、今後どういう運命をたどるのかである。 日本語には二種類の形容詞が存在している。 国文法ではそれぞれ形容詞、形容動詞と呼び、 日本語教育の現場では、イ形容詞、ナ形容詞と呼ぶ。 形容動詞は、その語幹の独立性の高さを強みにして、 漢語、外来語を取り込み、ますます勢力を増している。 既に数において形容詞を圧倒している。 逆に形容詞は平安時代から、複合形容詞を除き、ほとんど数を増やしておらず、 死語となり廃れてしまった数のほうが多いという印象を受ける。 同じ言語に、同様の機能を持った二種類の品詞が並立するのは非効率である。 そういう観点から、形容詞の過去と未来に対する興味は尽きない。

まず、形容詞は、その使用頻度に比べて所属単語数は非常に少なく、 このコラムで扱うのも850単語程度である。複合語を整理すれば、 もっと少なくなるに違いない。そして分析の第一歩では、 音韻による分布表は欠かせない。 今編では分布表を紹介することから始めたいと思う。 元になった辞書として形態素解析システム「茶筌」の辞書を使わせていただいた。 茶筌については、このコラムのトップページにリンクが貼ってある。

形容詞の語幹の最終拍
ア行カ行サ行タ行ナ行ハ行マ行ヤ行ラ行ワ行ガ行ザ行ダ行バ行パ行合計
ア段 2 53 42 33 103 0 7 11 21 10 7 0 1 4 3 297
イ段 6 4 284 2 0 0 1 0 0 0 0 4 0 0 0 301
ウ段 10 13 12 13 0 0 8 9 25 0 1 2 0 2 0 95
エ段 0 6 1 0 3 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 12
オ段 13 20 2 17 0 0 4 22 31 0 5 1 11 0 19 145
合計 31 96 341 65 106 0 21 42 77 10 14 7 12 6 22 850

まず目に付くところでは、サ行イ段「シ」で語幹が終わる形容詞、 いわゆる文語での「シク活用」由来のものが非常に多い。 がナ行ア段「ナ」で語幹が終わる「ナイ形容詞」である。 その二つで全形容詞の45%を占めてしまう。

多数派の形容詞(1-10)
順位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
語尾 ~しい ~ない ~かい ~さい ~たい ~ろい ~るい ~よい ~らい ~こい
284 103 53 42 33 31 25 22 21 20
累積数284 387 440 482 515 546 571 593 614 634
割合 30%<40%<50%<< 60%<< < < 70%<<

多数派の形容詞(11-20)
順位 11 12 13 13 13 16 17 18 19 19
語尾 ~ぽい ~とい ~おい ~くい ~つい ~すい ~やい ~どい ~うい ~わい
19 17 13 13 13 12 11 11 10 10
累積数653 670 683 696 709 721 732 743 753 763
割合 < < 80%<< < < < < < 90%≒

それとは対照的に、所属形容詞がない拍や、たった数個しかない拍も沢山ある。 さて、そられのいわゆる少数派にどのような形容詞が存在しているのか調べてみよう。

少数派の形容詞(21-45)
順位語尾 累積数形容詞
21 ~ゆい 9 772 (おもはゆい)、かゆい、(こそばゆい)、(たゆい[弛い、懈い])、まばゆい[目映い、眩い]、むずがゆい
22 ~むい 8 780 うすらさむい、(うそさむい)、おさむい、けむい、さむい、ねむい、はださむい、はだざむい
23 ~まい 7 787 (あさまい)、あまい、うまい[上手い、旨い、甘い、美味い]、せまい
23 ~がい 7 794 すえながい、ながい[永い、長い]、にがい、ひろながい、ほそながい、ほろにがい
25 ~いい 6 800 いい、(かいい)、かっこいい、かっこういい、きもちいい
25 (~けい)6 806 (かそけい)、(さやけい)、(つゆけい)、(のどけい)、(はるけい)、(むくつけい)
27 ~ごい 5 811 (えごい)、すごい、むごい[惨い、酷い]、ものすごい
28 ~きい 4 815 おおきい、(しんきい)、(すきずきい)、(つきづきい)
28 ~もい 4 819 おもい、(ておもい)、(ともい[乏い、羨い])
28 ~じい 4 823 すさまじい、(ひもじい)、むつまじい、(ものすざまじい)
28 (~ばい)4 827 (かうばい)、(こうばい)、(しりこそばい)、(ねばい)
32 (~ねい)3 830 (あまねい[普い、洽い、遍い])
32 ~ぱい 3 833 あまずっぱい、しょっぱい、すっぱい
34 (~あい)2 835 (はらあい)、(ふかあい)
34 ~そい 2 837 おそい、ほそい
34 ~ちい 2 839 (くちい)、みみっちい
34 ~ずい 2 841 きまずい、まずい
34 ~ぶい 2 843 しぶい、にぶい
39 (~せい)1 844 (いぶせい)
39 (~みい)1 845 (いみい)
39 (~めい)1 846 (なめい)
39 (~ぐい)1 847 (えぐい)
39 (~げい)1 848 (しげい)
39 (~ぞい)1 849 (おぞい)
39 (~だい)1 850 (いまだい)

上記の表を見れば分かるように形容詞に使われる音韻は非常に偏っている。

これらの項目を眺めると

と、いろいろな問題提起がなされると思う。


[活用形の起源を復習しよう](2002/07/21)

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今回は、形容詞とそして形容動詞の活用形の起源を復習したいと思う。 このコラムの読者には常識的な内容だが、 表にすると、今までの知識が整理され、新しい発見もあると思う。

さて、形容詞・形容動詞の活用形は起源は、動詞に比べて追跡可能である。 それは、基本的に、助詞+動詞「あり」からの派生と音便であり、 元々の活用形は上代より前では、あまり整備されていなかったからである。

形容詞の活用形の起源
固有 く+ある左の短縮
未然形推量形 くあろうかろう
連用形副詞形くあり
中止形くて くあって
完了形 くあったかった
終止形終止形くある
連体形連体形くある
仮定形仮定形ければくあれば

形容動詞の活用形の起源
固有 左の短縮 に+ある 左の短縮 で+ある左の短縮
未然形推量形 であろうだろう
連用形副詞形 であり
中止形(にて) であって
完了形 であっただった
終止形終止形 である
連体形連体形 (にある) である
仮定形仮定形 (にあらば)ならであれば

上記の表を見れば分かるように、連用形に「ある」が付くことで、 ほとんどの活用形が導き出せる。特に形容動詞のすべての活用形は、 助詞「に」から派生したと言ってもよい。 形容詞の場合は、終止連体形と仮定形が追跡不能である。


[形容詞と形容動詞の交替](2002/11/22)

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形容詞には形容動詞と交替可能なものが幾つか存在する。 例えば、「暖かい」だと形容詞として活用し、 「暖かだ」だと形容動詞として活用する。 今回はどのような単語があるか拾い出してみよう。

形容詞と形容動詞の交替
語幹形容詞形容動詞
アタタカ(暖か、温か)暖かい、温かい暖かだ、温かだ
ウサン(胡散)胡散い(*1)胡散だ
キイロ(黄色)黄色い黄色だ
キガル(気軽)気軽い(*1)気軽だ
キメコマカ(木目細か)木目細かい木目細かだ
コマカ(細か)細かい細かだ
シアク(四角)四角い四角だ
テアラ(手荒)手荒い手荒だ
テガル(手軽)手軽い(*1)手軽だ
ハバヒロ(幅広)幅広い幅広だ(*1)
ヒヨワ(ひ弱)ひ弱い(*1)ひ弱だ
マヂカ(間近)間近い(*1)間近だ
マッシロ(真白)真白い真白だ
マドオ(間遠)間遠い間遠だ
メンドウ(面倒)面倒い(*1)面倒だ
ヤワ(柔、軟)柔い。、軟い柔だ、軟だ
ヤワラカ(柔らか、軟らか)柔らかい、軟らかい柔らかだ、軟らかだ
ヴィヴィッドヴィヴィッドい(*1)ヴィヴィッドだ
この条件に該当する単語は、形容詞850、形容動詞2564の中で、 わずか18語しかない。実際に俗語を除けば、もっと少なくなる。 となれば、やはり、形容詞と形容動詞は峻別される品詞群で、 相互が混用されることはないと言える。 しかし、方言の中には、相互の境界が曖昧なものも存在することを紹介しておこう。
熊本弁の形容詞と形容動詞の活用
活用形 形容詞 形容動詞
未然形推量形うつくしかろうきれいかろう
連用形副詞形うつくしく きれいくきれいに
中止形うつくしくて きれいくて
完了形うつくしかったきれいかった
終止形終止形うつくしか きれいか
連体形連体形うつくしか きれいか
命令形命令形うつくしかれ

残念ながら、仮定形については原典がなかった。 実際、岡山より西側の方言では、 「く」が連用修飾語を作るための助詞として使われることは確認しており、 機能的にだけでなく、形態的にも形容詞と形容動詞の区別は曖昧である。